dellblorin日記

袖擦り合うも他生の縁

フェイスブックのリブラは始まる前に終わった

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出典:kompas.com

フェイスブックがLibra(リブラ)というサービスを発表した。当初フェイスブック発の仮想通貨のような捉えられ方をしていたが、実際は決済サービスのようだ。フェイスブックメッセンジャー機能を介し個人間などの送金、また各種支払いに利用できる暗号資産として設計されている。

要はリブラを使えば手軽に国境を超えた個人間の送金、ネットでの各種支払いが可能になる。これは従来の銀行送金、現金またはクレジットカード決済などに取って代わる可能性がある。

発展途上国ではそもそも銀行口座を持たない(持てない)人も多く、リブラはそのような人達でもネットに繋がりさえすれば利用可能なため利便性は高いだろう。

リブラが世界中で普及した場合、誰も自国通貨を使わず全てリブラで済ませるようになる。言ってしまえばリブラという世界共通通貨が誕生するということだ。

リブラが普及した未来ではお店の支払い、ネットショッピングの支払いをリブラで済ませ、友人同士のお金のやり取りもリブラ。外国で出稼ぎ労働をしている人は給料をリブラで受け取り、母国の家族にその一部を送金する。そしてそれらはスマホから一瞬で済んでしまう。

とてつもなく便利そうだがこのリブラ発表後、すぐに世界中の金融機関が懸念を表明するに至った。それはなぜか。

リブラが世界通貨となった場合、まず市中銀行が大きな影響を受ける。リブラの手軽な送金は銀行送金を不必要にする。さらに自国通貨の信用が無い国では国民の多くがリブラを使い、自国通貨は持たなくなるかもしれない。そうなれば銀行預金は激減するだろうし、銀行は企業融資の原資不足に陥り、企業は融資を受けられず経済発展が阻害される。

各国の中央銀行の金融政策にも影を落とす。中央銀行金利の上げ下げ、通貨発行権を使い市場に流すお金の量を調節し経済をある程度コントロールしている。しかし、リブラ普及でこれら金融政策が機能しなくなる恐れが出てくる。

自国通貨が使われていないのなら、景気刺激策として使われていない通貨の金利を操作したり、供給量を加減しても無意味だからだ。

リブラは法定通貨国債の裏付け資産を保有するとされる。それにより裏付けのないビットコインなどの仮想通貨のような乱高下は起きず、安心して利用できると言いたいのだろう。だがこれにも問題がある。

例えばフェイスブックの業績が急激に落ちた場合、多くの利用者はリブラを換金しようとするだろう。そうなればフェイスブックには裏付け資産の売却圧力が生じ、保有通貨や国債の価格下落を招き経済の混乱を招きかねない。

こういった様々な問題を孕んでいるためか、自分達の影響力を低下させる存在を許さないということなのか、世界の中央銀行はリブラに懸念を表明し、G7では議長総括で「金融システムの安定や消費者保護を脅かすことのないよう、最高水準の金融規制を満たす必要がある」と強調され、アメリカのトランプ大統領ツイッターで「フェイスブックや他の企業が銀行になりたいのであれば、他の銀行と同様に銀行免許を申請して、国内外の銀行規制の対象にならなければならない」と否定的な主張をしている。

フェイスブックは当初、2020年の初めにサービスを開始する予定だったが、規制上の懸念が解消するまではリブラを発行することはないと表明した。つまりお上の許可が出るまで待つということだが、それは何時だろうか。きっと何年経っても出ないだろう。そして事実上、リブラは葬られるに違いない。

リブラのようなデジタル通貨の高い利便性は金融関係者も理解しているだろう。いずれ中央銀行が自ら発行するのではないかと思う。その点からいっても民間デジタル通貨を中央銀行が放っておくとは思えない。リブラは始まる前に終わったといえる。