現在、日本の伝統とされるものを文献を元に検証していく内容。取り上げられているものは基本的に数十年〜百数十年程度、要は明治辺りから始まったものばかり。伝統とは何年続いていればいいのかなど定義が難しいところがある。そのためか著者ははっきり偽伝統だとは書かないが、否定的に捉えていると思われる。
書かれていたものの中で、印象に残った事例を書き残しておく。
六曜
六曜は中国生まれの占い。室町時代に輸入され、現在の6つの呼び名になったのは江戸時代。幕末に暦につける事が流行し現在に至る。元々日本の伝統ではなく、仏滅や友引なども元の呼び名は全く違ったものだった。
明治時代に入ると迷信だと暦に六曜を含める事を禁止。福沢諭吉は下記のように六曜を批判している。
これまでの暦にはつまらぬ吉凶を記し、(略)迷の種を多く増し、或は婚礼の日限を延し、或は転宅の時を縮め、或は旅立の日に後れて河止に逢ふもあり。或は暑中に葬礼の日を延して死人の腐敗するもあり
- 六曜が日本に伝わり約680年
- 現在の呼称と順番になって約180年
- 明治時代に禁止されて約145年
- 復活して約75年
夫婦同姓
元々は特権階級(貴族や武士)だけが苗字を持っていた。庶民は紛らわしいため地域や屋号を苗字代わりにする事はあったが、法的なものではなく私称。
明治3年に平民苗字許可令により誰でも苗字を使えるようになる。苗字を使うのは自由意志だったため、必要ない人は苗字を使わなかった。
明治8年に平民苗字必称義務令により苗字が義務化される。すると全国から結婚した女性の苗字はどうするのか問い合わせがくるようになる。内務省は太政官に伺いを出した結果、明治9年、太政官司令で「他家に嫁いだ婦女は、婚前の氏」とされ、当初は夫婦別姓だった。
明治31年に民法(旧民法)が成立。ここで初めて夫婦同姓が制定。民法中に規定されたのが家制度。同じ姓により戸籍の筆頭者を決め、家単位で国民を管理する家族制度。家制度の運用には夫婦を同姓にする方が都合がよかった。
昭和22年に改正民法が成立。家制度は廃止されたが夫婦同姓は残る。但し夫と妻の姓、どちらでも選択可能になった。
日本が夫婦同姓になったのは明治の民法成立からで最近の事。歴史を見れば夫婦同姓ではない(そもそも苗字を使っていない)人が多く期間も長い。
- 庶民が姓を名乗るようになって約140年
- 夫婦別姓になって約140年
- 夫婦同姓に変更されて約120年
大家族
大正9年に行われた第一回国勢調査では、日本の家族構成は核家族54%、拡大家族(ほとんどが三世代同居)31%、単独世帯6.6%。所謂大家族の拡大家族は全体の三割弱で半分にも満たない。それと比べて核家族は過半数。
平成27年の第二十回国勢調査では、核家族55.9%、拡大家族9.4%、単独世帯34.6%。拡大家族は大幅に減り、単独世帯が大幅に増えている。
三世代同居が減少したのは間違いないが、日本が昔から大家族が一般的だったとはいえない。一般的だったのは核家族である。そして現在の日本は急激に単独世帯が増えている。
ちなみに平安時代は拡大家族(三世代よりもっと多くの同居)が多く、江戸時代に核家族化が進んだという。そこから三世代同居が増加するのは幕末以降。